公共交通と交通権

〈背景と問題〉

 人口減少、高齢化社会における交通弱者の増加とそれに伴う公共交通の危機。 

〈交通権とは〉

 非常に広い概念で、国民の交通する権利のことを指す。根拠条文としては、13条(幸福追求権)、22条(居住移転及び職業選択の自由)、25条(幸福追求権)等が挙げられ、社会権として解されている。

〈歴史的背景〉

 1980年にフランスで提唱された(フランス国内交通基本法)。日本でも国鉄民営化に反対する論客としてこの考え方が持ち込まれた。日本においても、国鉄民営化に対する反対運動の一理論として持ち込まれた。

 

(フランス国内交通基本法

第1条 国内交通体系が充足すべき要求は、安全・環境問題を尊重しつつ、公共交通機関を選択する自由とともに、移動成約者を含む全ての利用者の持つ「移動する権利」を実現することにより満たされる。

 

〈国内に於ける判例

【事案】国鉄における2段階の運賃設定が、国鉄の謳う全国一律運賃制度に反し原告らの交通権(自らの生活をよりよく向上させ、ひいては住みよい国土を建設する手段としての全国的交通網を国家に対して要求する権利)を侵害しているとして、格差部分の返還を求めたもの。

【判旨】13条、22条、25条どの条文においても本件請求の根拠となるような具体的権利として考える限り。憲法拠づけることはできないとした。

【事案】信越本線の一部区間廃止と第三セクター転換により原告らが交通権ないし交通の利益(だれでも、いつでも、どこでも、便利に安全、快適かつ低廉に移動でき、自由に貨物を送り、受け取ることができる権利)を侵害され不利益を被ったとして、その廃止許可処分の取消を求めたもの。

【判旨】原告適格を否定。(交通権に関する判断を忌避)

⇒具体的な請求権としての交通権のみを判断しているということは、抽象的請求権としての交通権を否定したものではない?

〈交通基本法

 2002年頃から提案され、複数の審議を経て、2013年に施行された法律。交通弱者の救済と交通政策の具体的な認識の明確化を図った法案であるが、交通権についての明文化はない。

〈参考文献〉

和歌山地裁平成3年3月27日、判時1388号107頁。

長野地裁平成10年12月24日。

・芦部 信喜、高橋 和之『憲法 第七版』 岩波書店 (2019年) 268-270頁。

・生田保夫 『交通学の視点』 流通経済大学出版会 (2004年) 202-207頁

・石田東生 「交通政策基本法への期待と課題」 『運輸と経済』 74巻6号 (2015年) 110-112頁。

・上野正紀 「国鉄和歌山線訴訟について」 『交通権』 10号 (1992年) 45-48頁。

・岡崎勝彦 「交通権概念の成立と今後の展開」 『交通権』 33号 (2016年) 12,17-18頁。

・岡崎勝彦 「国鉄分割・民営化と交通権」 ジュリ850号 (1986年) 45頁。

・上岡直見=宇都宮浄人 『交通基本法を考える』 かもがわ出版 (2011年) 21-31頁。

・喜多秀喜 「地域公共交通計画で定めるべき事項の考え方」 『運輸と経済』 74巻6号 (2015年) 82頁。

・交通権学会 『交通権』 日本経済評論社 (1986年) 39-49頁。

・田邉勝己 「交通基本法と交通権に関する考察」 『運輸と経済』 75巻6号 (2015年) 105-106頁。

・戸崎肇 『交通論入門』 昭和堂 (2005年) 20-28頁。